DIARIO del ESPANYOL:第3章 スペインにおける育成システム
全てのサッカー少年達(その他の種目も)がサッカーにおいて、“何してる時が一番楽しく、真剣に取り組む時”だと思います?....
育成、育成とあらゆる所でこの言葉を良く聞くが“育成=指導者達が少年達に対し優れた指導をする事”だけではないとつくづく感じる。
以前、日本の某指導者(ブラジル出身)が、ブラジルでは選手を育てるのではなく、勝ってに育つ物だ...と言ってたのが印象に残っている。それはどういう事か....それはそういった“環境”があるからである。
例えるなら、ブラジルやアルゼンチンの選手達が育成されている土壌は、素晴らしい“肥料”(環境)がある肥えた土壌で、日本の選手達の土壌は“痩せた”土壌と言える。単純に植物等を植えれば、どちらが育ち(手間かけず)が良いか想像つくであろう。
以前にもお話したが、エスパニョールの“カンテラ”(下部組織)はユースからジュニアまで10チームを抱えている。細かく年齢(約1才ごと)で分けられており、そのチームごとに練習し、多少の選手の上下の入れ替えは行われる。えっ..そんなにチームを持ってるの....と思われるであろう...なにせ、日本の枠組みでは、基本的にジュニア(小学校)、ジュニアユース(中学校)、ユース(高校)と大まかに分けて3つのカテゴリーに分けられており、そのカテゴリーの大会の為のチームを持ってればいいのである。
ではここでは何故そのようにチームを沢山抱えているのか...それはそれらの10チーム全てに対しリーグ戦という“公式戦”が存在しているからである。
分かりやすく言えば、自分はまだ1年生で、上級生が居るから公式戦は出れない...と言う事はここでは存在しないのである。
9月~翌年の5月まで年間を通し、真剣勝負の戦いが行われているのである。
ユースからジュニアまで1部から2部、3部、4部....と枠組みがあり、エスパニョールの場合、各カテゴリーの年上のチームは1部リーグ、その年下のチームは2部リーグに在籍と言った形で毎週末真剣勝負しながら“育成”されている。
もっと詳しく言うと、月曜から始まる練習は、週末の本番の試合(リーグ戦)の為に行われ、その試合の結果、出てくる反省材料を、翌週からの練習に生かし、さらに次の週末の本番の試合に挑む....これを9月~5月まで毎週行って行くのである。
改めて自分は思ったが、こっちの連中がもし日本に行ったら、何で週末に本番の試合がないのに練習するの?...と言う事であろう...
言い方を変えよう、子供達の学びの場、学校にて毎週末、本番のテストがあったとする。そのテストの為に月曜日から勉強をする...そしてテストの結果出てくる反省材料を翌週のテスト対策にする...それを年間を通して行われたとしたら、1年後それは実力が付く事であろう...
リーグ戦のロッカールームにて、まず監督達は、先週の試合は....と言った事から話し始め、反省点、良かった点を伝え、では今日の試合目標は...(当然勝利ではあるが...)と、たとえ今日負けたとしても年間約30試合の“公式戦”は続くのである。今週負けても、来週の試合で十分挽回出来るのである...そして年間トータルでの成績、選手の成長度、アウェーとホームでの戦いの“かけひき”等を学んでいるのである。
これがここでの“育成”なんだな...と自分は痛感した。
これはいわゆる1部リーグ所属のプロクラブの選手達に限った事ではない。全てのスペイン国内のクラブのチームの少年達が毎週末、レベルの差はあるにしろリーグ戦という形の“公式戦”でプレーしているのである。
もちろん日本でもA,Bチームを作り、大会に参加しているのは知っている。だが重要なのは、ここではそういったBやCチームの選手達も、2部、3部リーグにて、真剣勝負を年間30試合前後行っているという事である。
なんて選手達にとって楽しいシステムであろうか...もし自分が少年時代、毎週末本番の試合があったとしたらこれにまさるものはなかったであろう... 本番の試合とは、ちゃんと選手登録され、試合前審判にチャックされ、整列してグランドに入り...といわゆる気合が入り、わくわくするものである。
限られた選手達だけがこの“公式戦”を経験するのではなく、ここでは全ての協会登録選手が経験出来るのである。(レベルの差はあるが)週末が終わると、今何位だよ...とか、来週は何位のチームと対戦だ...と毎週が充実してくるものである....
結局自分が言いたいのは、日本とのシステム(競技方式)の違いであるである。
練習した事(監督達から学んだ事)を活かす場があまりに少なさ過ぎるのである。またその練習にて学んだ事を活かす最高の舞台は、いうまでもなく“本番の勝負の掛かった試合”である。
日本の少年達が年間いくつの試合(公式戦)を戦っている事か...今やってる練習は何の為?...うまくなる為...と言った曖昧な意見より、身近に迫った本番の試合で良いプレーをする為、の方がよっぽどしっくりくるものである。
ここではそういったリーグ戦システムが確立しており(歴史的に)それがスペイン全土統一形式で、下から上まで行なわれているのである。選手達はそのシステムに自動的に組み込まれ、それを段階的に上に上がるにつれ、いろんな経験を得つつ、選手として育成されているのである。無論、指導者達の指導能力も重要である。が平行してこのような環境も同じくらい育成に関して影響しているのは言うまでもない。
聞いて見て欲しい、まずほとんどの少年達が“本番の試合(真剣勝負)をしてる時”と答えるはずである。(冒頭の自分の質問に対し...)
松井真弥 1971年広島生まれ 千葉にある某整形外科に勤務しつつトレーナーとして、いくつかのサッカーチームと関わる。2000年、本場のフットボールを生の目で見るのと、スペイン語でやり取りが出来るトレーナーを目指し渡西。現在バルセロナにあるプロクラブ“エスパニョール”に在籍し選手のケアをしてる。