DIARIO del ESPANYOL:第10章 日本との少年達との差...
リーガエスパニョーラ事、スペインリーグが終了した。ご存知の方もおられると思われるが、我がエスパニョール、リーガ(スペイン国内リーグ)を5位で終わり、見事来期のUEFA杯出場を決めた。(1~4位までがチャンピオンズリーグ、5位と6位がUEFA杯へ)この激戦のリーガエスパニョーラでこの順位で終わるのが何を意味してるのか説明の必要はないであろう...(1位バルサ、2位Rマドリー、3位ビジャレアル、4位ベティス、5位エスパニョール、6位セビージャ...)いつも買いに行くキオスコ(新聞屋)の親父も、自分がエスパニョールに居るのを知ってて、“Felicidades!!por UEFA!”(UEFAおめでとう!)と言ってくれたものである。
さて、話は変わり先日スペインはガリシア地方(ポルトガルの隣)で行われた“Futbol7”(7人制サッカー)の国際大会にチームと共に行って来た。カテゴリーは日本で言う小6である。参加チームは、Rマドリー、ボカジュニアーズ、インテル、パリサンジェルマン、レッドスター、アヤックス、バレンシア、デポルティーボ、アトレティコマドリー...等の国内外の有力クラブ達が招待され、現地のいくつかのクラブが加わったと言う感じである。いつもはユース達と共に行動しているのであるが、このカテゴリーのトレーナーが行けないとの事で自分が行く事になった。
ここスペインを始めとしてヨーロッパではこの7人制サッカーは下のカテゴリーでは盛んに行われている。当然の事ながら、この7人制にも“戦術”と言うものがあり、自由にやって来い...なんてのはありえないのである。この年代からも“どう戦うのか?”“チームの決まり事は?”“セットプレー時は?”...等そういった面をふまえて各チームがプレーしているのをつくづく感じる。
ちなみにこの大会で優勝したのはRマドリーであるが、彼らはFWに身長185cmのカメルーン人を要しており彼の身体能力は、はっきり言って反則である...(皆奴は12歳じゃないぞ...と言ってたが...)一番プレー内容が良かったのは、アヤックスで、大会MVPもそのアヤックスの左サイドバックであった。
自分が最も印象に残ってるチームは、ボカ・ジュニアーズ(アルゼンチン)である。何が印象に残ってるかって、彼ら(たかが12歳)のメンタルというか、抜け目なさというか、ずうずうしさである....開会式に現れた彼らは、同じ言語(スペイン語)を使うと言うのもあるが、他のチームの選手達と会うたびに、“お前らどこと対戦するの!”“名前はなんだよ!”“かっこいいジャージ着てるな!”と積極的というか、恥ずかしさや照れを知らないのは、スペイン人以上である。(スペイン人達がまともに見えたものである...)
まるで以前から知り合いのような口調で話しかけてくる彼らに対し、他のスペイン人選手達は平然と対応していたが、自分は少し唖然としたものである....(同年代の日本の少年であればこうはいかないだろうな...と)
対照的だったのは、レッドスター(旧ユーゴ、セルビアモンテネグロ)の少年達である。トップチームは数年前ヨーロッパチャンピオンになり、トヨタカップにも来日した事がある東欧の名門クラブであるが、彼らはあまり笑顔を見せない...というか表情に豊かさがない...といった印象を受けた...無論試合を戦ってる時は、他のチーム達と同様に点を取れば皆で喜び、味方を励まし、審判に文句を言い...と他のと変わりはないが、言うならば“浮かれてない”と言った印象を受けた。さすがにこの少年達は以前の内戦の影響を受けてはないと思うが、ユーゴ内戦時には、日本の少年達はぬくぬくと楽しくサッカーしてた時に、彼らの国では空爆等が行われており、そんな中で育った連中達は夢みたいな事を言わず、しっかりと目の前にある“現実”を見て生きていたと聞く。
スペイン人は自分の国から外に出るとほとんどがホームシックになるのに対し、彼らのほとんどはヨーロッパのあらゆる国々で適応し生活している。状況がそうさせたのだと思われるが、その少年達を見てて、その一端を垣間見たような気がしたものである。ただ東欧の選手らしく個人技は他のチームより俄然優れていた。
スタジアムの大人用のコートを2つに分けて試合をしてる間、残りのチーム達はスタンドで試合を見ていたわけだが、ここでまた面白い現場を見た。ボカの選手達を先頭に、“おい!お前のその練習着、俺達のと交換しようぜ!!”と“練習着交換取引”がスタンド内で始まったのである。
それを見ていた他のチーム達も加わり、インテルやアヤックス、パリサンジェルマンの連中達も率先して、他のチームのグッズと交換取引をし始めた。
さてここからである。スペイン人同士だと無論スペイン語で通じる訳だが、問題はフランス人やイタリア人、ユーゴ人、オランダ人が居る事である...
最初はエスパニョールの連中も、パリサンジェルマンの連中達に対し、堂々とスペイン語で“おい!アミーゴ!!、交換しようぜ!!”って言ってたが、それがうまく通じないのを知ると、コーチの所に来て、交換したいんだけど英語でなんて言うんだ?って、それは必死であった...その後、英語、スペイン語、イタリア語、フランス語...まじりの“取引”が行われ、要領のいい奴は数枚獲得し取引に成功したようである。
言った者勝ち、やった者勝ちの世界である。
それを見ていた各チームのコーチ達は、誰一人として“何やってんだ!”と言ってる者はいなかった...自分達の責任のもと、好きに交換すればいいのである。とあるエスパニョールの選手は、ジャージまで交換したらしく、コーチから、お前練習の時どうするんだ?との問いに、だってもう暑いし、あと少しで今シーズンも終了だから必要ないでしょ...である...
こういった異国間の交流を見ていて、もしここに日本の少年達がいたらどう対応するのかな...と思ったものである。和を乱さない、人と違った事をしてはいけない、常にコーチ(先生)の目を気にする....無論それがいいとか悪いとか言ってるのではない。それが各々の国の文化でもあり尊重しなくてはならないであろう。
ただ、日本を一歩出ると、たかが12歳の連中達が、こんな事をし、このようなメンタルを持っているのである。以前のコラムでも言ったが、ここヨーロッパはサッカーを通して異国間の交流の大会が、いたる事で行われている。たしかにこれらの大会に出場できるのは、いわゆるプロ傘下のクラブ達ではあるが、これらの経験はサッカーうんぬん意外に、育成期において異文化を知ると言った意味で多大な影響を示してると痛感するものである。
世界を体験する...ではないが、このような交流の大会に参加できるこっちの少年達が羨ましく、日本人も少しでも多くの少年達が体験できれば...と思うものである....
松井真弥 1971年広島生まれ 千葉にある某整形外科に勤務しつつトレーナーとして、いくつかのサッカーチームと関わる。2000年、本場のフットボール、プロクラブ内部を生の目で見るのと、スペイン語でやり取りが出来るトレーナーを目指し渡西。現在バルセロナにあるプロクラブ“エスパニョール”に在籍し選手のケアをしてる。