香港のナイキカップの世界大会が終わり、バルセロナに戻って来たと思ったら、8月1日より05-06シーズンのユース始動である...今期はユースを中心として活動していくのであるが、そのチーム監督でもあるジョセップ(サッカ-クリニック9月号に掲載)はかなりの“戦術家”でもある。自分もエスパニョールに5年在籍しいろんな監督達と接して来たがその中でも1,2を争う人物である。9月半ばからのユースの年間を通しての公式戦でもある、リーガに向け、プレシーズン中の今、この新しいチームに、自分の“futbol理論”を徹底的に植えつけている所でもある。
さて8月の中旬ではあるが、U-12千葉県選抜がバルセロナに遠征に来た。ほぼ毎年バルセロナに遠征にきてるのではあるが、毎年感じる事は同じ事である。
①選手個々のテクニックはあるが、サッカーを知らない..(こちらの同年代と比較して)②試合時にどう動いていいのか解っていない...
③何も考えずにプレーしている...(考えていない...)
無論それらを学ぶ為に来ているのではあるが、個々のテクニックはあるのに...と感じるのはいつもの事である。
日本では往々にして小さい時は戦術は必要なく、テクニックを磨かなければ....といった風潮は少なくとも自分が日本にいる時にはあった。自分もそうだなと感じてもいた。
だが、ここスペインに来て、ここの小学、中学年代の選手達のサッカーと言うものの考え方、見方を見たとき、愕然としたものである。
試合中もベンチにて、“あそこのスペースが空いてるぞ!..ライン上げろ!...早くはたけ!...等、自分がベンチにいても、そうそうその通り..と思ってしまうくらい理解しているのを感じる...(プレーの器用さは日本人の方が上だが...)
無論、日本とはサッカーを取り巻く環境が違いすぎるので、一概に比較は出来ないが、ここでは町のいたるところにサッカー場があり、毎週末いろんなレベルのカテゴリーの試合があり、そこにいろんな連中があつまり、いわゆるサッカーを見る環境がある。
何ががいいプレーで、何が良くないのか、この場面では何をしなければならないのか、時間を稼ぐにはどうするのか、審判をだますには...といった事をチビの頃から遊びがてらにサッカー場に行き、そこで見て自然に学んでいるというのは、サッカー強豪国の環境でもある。
かつ、非常にレベルの高いプロリーグがあり、それを見て、“見た昨日のロナウドのプレー?...”とこれで目が肥えないわけがない。
それらを見てると、サッカーに興味がなくても自然とサッカーというものが、何なのかというのが分かるというものである....歴史の差ではある。
ここでは8才からのカテゴリーからでさえ、試合前に作戦ボードを使い、フォーメション、攻撃のポイント、守備のポイント、セットプレー、チームの目標...といった“戦術”をかなりの時間をさいて話している。(アップの時間より長いくらいである...)
想像してみて欲しい...その年代からどう戦うのか?といった戦術を教えられている連中がジュニアユースやユースに行った時の戦術理解度を....
よく教えすぎるな...といった事を聞くが、それで選手自身が自分で考える事が出来なくなるとは自分は思わない。むしろ“教えなさすぎ”であると思われる。というより指導者自身が戦術について語れないのが現実であるとも思われる....
別に日本の指導者を悪く言ってるのではない。今現実に指導してる方達だって小さい時からそうやって、どう戦うのか?セットプレーは?...というのをちゃんと教わって来ていない人達がほとんどのはずで、それを大人になってから学ぶ...というのはこちらの指導者達と比べて、雲泥の差があるものである。自分自身もインターハイや国体に出場はしたが、はっきりとした“戦術”というものを教わった...と言うのはあまり印象がない...
少なくとも日本では、サッカーを見る環境が少ない訳で、少年達は何がいいプレーで、何が良くないのか、この場面では何をするのがいいのか...といった事を得る機会が圧倒的に少ない訳で、それらを指導者が小さな頃から教えていかなくてはならないであろうと自分は思っている。
攻撃の方法、守備の方法、セットプレー等、ある程度の常識と決まりはあるが、あとは各指導者達がそれらを勉強し、数多くのいろんなレベルの試合を見て、各々指導者達自身の“サッカー哲学”を持ち、それを少年達に教えていかなくてはならないであろうと思われる。以前にも書いたが、サッカーの試合のビデオすら見ない指導者は、少年達の為に指導しない方がいいのかもしれない....
千葉県のU-12選抜チ-ムは、同年代のバルサと試合をして0-7で負けた。(このバルサはその後、日本の清水に遠征しその大会の決勝でサンパウロと素晴らしい試合をしたとの事である...)無論選抜チームという事でそんなにチーム練習が出来ず、戦術的な事が出来なかった事は事実ではあるが、千葉県内では選ばれた選手達ではある。こられた指導者達は非常に勉強熱心でいろんな事を学んで帰られたが、やはり小さな頃からの“戦術”の重要性を感じられた事だろうと思われる。
要するに、自分の言いたい事は、テクニックと同時に“戦術”も小さな頃から教えましょう...という事である。
戦術は大きくなってから...今は技術中心で...分からなくもないが、どう戦うのか、と言った事も早くから教えないと、教えられていない選手達との差は歴然である。ジョセップが、クリニックにて今回千葉の少年達に、教えた攻撃面での戦術として“相手をだましてスペースを作り、そこを突く...”またその為の練習をする...非常になにげない表現ではあるが、この年代の少年達でも十分理解できたはずである。
ここではプロクラブの指導者達だけが優れた戦術眼を持ってる訳ではない。一般のクラブの指導者達も各々のサッカー観を持ち、きちっとした準備(毎練習前にはコーチ達とミーティングをしている...)をして週の間の練習にとりくみ、週末のリーグ戦には、今節はどう戦うのか?といった事をレポートしてるものである。
いろんな面でいいかげんなスペイン人?ではあるが、事futbolに関しては、データなり、戦術面なり、練習方法、組織...と歴史がそうさせているのではあると思うが、きちっとしているのである。
今回来たU-12のメンバーの数人のテクニックは、バルサと同レベルのエスパニョールの同じカテゴリーのチーム入っても十分やっていけると感じた(ジュセップも同感)。もしその彼らが1年間でも、こちらのチームに入って、“戦い方”というものを学んだら1年後どんな選手になるであろう...と思うものである。
松井真弥 1971年広島生まれ 千葉にある某整形外科に勤務しつつトレーナーとして、いくつかのサッカーチームと関わる。2000年、本場のフットボール、プロクラブ内部を生の目で見るのと、スペイン語でやり取りが出来るトレーナーを目指し渡西。現在バルセロナにあるプロクラブ“エスパニョール”に在籍し選手のケアをしてる。