DIARIO del ESPANYOL:第5章 “環境”が選手を育て大人にする
年末に、スペインはカナリア諸島(モロッコ沖、アフリカ)のテネリフェ島で、7人制フットボールの国際大会が開催された。カテゴリーは、11才~12才、日本で言う小6(1992年生まれ以降)である。
スペインではこのカテゴリーでは、夏のマドリー近郊(ブルネッテ)で行われる大会(スペイン国内の1部リーグ所属の下部が参加)と、冬に行われる国際大会を7人制フットボール2大大会としている。いずれも衛星有料放送会社“Canal+”がスポンサーとなり、解説者付きで、全ての試合をTV放送している。
今回参加したエスパニョールのU-12は、夏の大会で見事スペイン全国優勝を達成し、今回も優勝候補であったが、またこの冬の大会も制覇したのである。
この冬の大会には、Rマドリー、バルサ、バレンシア等のスペイン国内の有力チームをはじめ、マンチェスターU、パリSG、インテル、バイエル・レバークーゼン等を含んでおり、メディアは“ミニチャンピオンズリーグ”と言っている。
エスパニョールにしてみれば、前年度のユースのスペイン全国制覇に続き、下のカテゴリーがまたも優勝した訳だが、改めて下部組織のエスパニョールを証明したとも言える。
たかが、12才ではあるが、されど12才である。
そこでである、自分が感じている2点の出来事について書かせてもらう。
一つ目として...
この大会での試合前後または、試合中(ベンチに居る)の“若干12才”の選手達に対するインタビューである。
誰一人として、下を向かず、インタビュアーの目を見て、12才ではあるが、自分の意見を述べている点である。日本の皆さんに是非試合内容よりも、この彼らが受けたインタビューのシーンを見せたいものである。
彼らのコメントが間違ってるとか、そういうのは関係なく、はっきりと自分の意見をカメラを向けられて述べているシーンである。
例えば、決勝にてハーフタイム、エスパニョールは1-0で、負けていた、ベンチに戻るキャプテンを捕まえ、そこでのインタビューで、“前半は相手のプレッシャーに負け、うまく出来なかったけど、後半は点を入れるよ...”と腰に手を当ててまるでベテランプロ選手のように答え、また試合前には、別の選手が、決勝に対する抱負を述べているのを見ると、同年代の日本の少年達はどう答えるのか...と考えざるを得ない...その彼達と総合練習場で会うと、挨拶として“オー!シン!(自分のアダ名)、どうだい最近調子は?”と彼達よりも数倍年上の自分が言うべき挨拶をして来るものである...
日本の同年代の少年とのこの差はなにか...こちらとの環境、文化、習慣の違い、こちらの選手達と接してて、ある意見が自分なりには感じている。その意見は後日またこのコラムで書きたいと思う。(そのビデオがご覧になりたい方は、迷監督KAZU宛てまで...)
二つ目として...
このエスパニョールのチームには、身長180cmの、カメルーン人が居る。名前は“サニー”。いまでも忘れない..丁度1年前、彼が総合練習場に始めて連れて来られた時の事である。派手な民族衣装を着た、親?代理人?ともわからぬ人とクラブの強化部長と一緒にメディカルチェックをしに来たわけだが、終了後我々メデカルスタッフ達が、“ところで彼はカデッテ(日本で言う中学~高校)のどのチームなの?”の問いに、“いやアレビン(小5年前後)だぞ..”との強化部長の返事に対し、“え~~っ!!”とその場に居た連中の目が点になったものである...
その場に居た我々スタッフ達が、絶対こいつ出生証明ごまかしてる...と思ったものである。
さて、初めて見た時の彼のプレーであるが...はっきりって“ど下手”である。日本人であれば“大嫌い”な選手のタイプである。トラップ出来ない、キックは下手、唯一のとりえと言えば、身体能力だけである。よくこんな選手連れてきたなぁ...と思ったものである。それから半年後、そのカテゴリーの、バルサ対エスパニョールのダービー戦をたまたま総合練習場で見た。
驚いた事に、彼はトラップが出来、センターリングを上げ、3-0の勝利に貢献してるではないか...
今回のこの7人制の冬の大会でも優勝に貢献した。大会得点王でもある。スペイン全土に名が知れ渡った事であろう。アナウンサーがサニーのテクニックに注目して下さい...と大袈裟にコメントしていたが、技術面はまだまだである。だが、彼は以前、とある町のクラブで野放し状態でサッカーをしていた所をスカウトされ、エスパニョールと言うプロクラブ組織に入り、指導者がどうと言うよりも、そういった“育成に適したレベルの高い環境”に組み込まれた事により、技術が向上したとも言えるのである。
周りの環境がここまで選手を変える物なんだ...というのを痛感したものである。
彼は今、年間を通したリーグ戦には、一つ上のカテゴリーでプレーしている。そこでもまだ身体能力を活かしたプレーをしてはいるが、得点王でもある。
自分がここスペインに来て、優秀な選手を育成するには...というのが常に頭の片隅にある。日本の指導者がいろんな練習法、指導法を覚えるのも重要ではあると思うが、再三自分が口にしてる“育成される環境”がもっと重要な事だとつくづく思っている。
無論、日本とこっちとでは、歴史的に全てが違うので、そんな環境なんて日本で出来る分けがない...たしかに自分もそう思う。しかし、現実にここに存在してる環境を生の目で見て、では日本流にするには...と日本に適したやり方を見つけていく事によって、日本流の“環境”が出来るであろうと思われる。
とあるJの関係者の方が、日本はいい国だけど、事サッカーというスポーツに関しては、いろんな面で不利な国だよね...と言ったが、まさに自分も同感である。
たぶんこのような事を書いても、まず日本の指導者の方達はぱっとされないであろう...
百聞は一見にしかず、興味ある方は是非バルセロナまで見に来て貰いたい。
自分でよければ、エスパニョールの環境又はスペインでの育成...をお見せできるものである。
おっとちなみに、カメルーン人のサニーにお気に入りの選手は、母国が誇るアフリカのスター、バルサ所属の“エトー”ではなく、フランス人、アーセナル所属の“アンリ”だそうである...
松井真弥 1971年広島生まれ 千葉にある某整形外科に勤務しつつトレーナーとして、いくつかのサッカーチームと関わる。2000年、本場のフットボールを生の目で見るのと、スペイン語でやり取りが出来るトレーナーを目指し渡西。現在バルセロナにあるプロクラブ“エスパニョール”に在籍し選手のケアをしてる。