DIARIO del ESPANYOL:第6章 スペインにおけるサッカー選手を取り巻く医療体制
今までの自分のコラムを読んでると、お前は指導者か?...と思われそうなので、この辺でトレーナーとして、こちらのサッカー選手をとりまく医療等について書きたいと思う。
はっきり言うと、スペインの医療、スポーツ医学は日本よりは進んでるとは言えない。が遅れている訳でもない。ヨーロッパの先進国、フランスやドイツのそういった技術がふんだんに入っており、ことフットボールに関しては、昔からの独特のやり方等もあるものである。またサッカー協会管轄のクリニックなるものがスペイン全土にあり、サッカー協会も選手達のケガに対するケアを行っているとも言える。
前回までのコラムにて、スペインでは年間を通した公式戦でもあるリーグ戦があらゆるレベルでスペイン全土で行われていると言うのを書いてきた。
週末になると、スペインサッカー協会統一形式のリーグ戦がプロからアマチュア、チビから大人までスペイン全土で1万試合以上行われている。
週末にラジオを聴いてると、ユースやその他のカテゴリーの試合結果を次々と流しているものである。
勝負にこだわり、激しい闘い?が行われており、試合中ボールが味方、相手選手のどちらでもない所に落ちた場合には、“Fuerte!!!”(強く行け!!)とベンチ、スタンドから叫び声が飛び、激しくぶつかり合っているものである。
当然ながら週末の試合(公式戦)に出る為には、スペインサッカー協会(州協会)に登録された写真付き選手証が必要であり、それにて試合前審判がチェックし、プレー可となる訳だが、ここではその選手証が、サッカー協会管轄クリニックの“診察券”としても活用されているのである。
スペインサッカー協会は、サッカー協会のクリニックをスペイン全土に設置している。
必然的にここでは週末の試合に出場するには選手登録するのが当然で、協会に選手登録した際に、その保険料も含まれており、要するに、ここでプレーしてる選手達は皆、ケガ等に対し、サッカー協会のクリニックにて無料で診療が受けれるのである。(当然、入院、手術費等も含まれている)
選手達は、診察券でもある選手証を協会のクリニックに持参し、受付で出せばOKである。ここのDr達は、スポーツ専門医でもあり、週明けには沢山の選手達がここを訪れるものである。
ここクリニックの特徴として、週末の試合にて受傷し、そのまま救急病院(これも協会のクリニックと繋がってる)に運ばれ、レントゲン検査等をし、処置をされ、一旦家に帰り、週明けに、協会のクリニックに行くと、そこにレントゲン等その人のデータが届いており、スムーズに治療が受けれると言うものである。その救急病院にも、選手証ですべてがまかなわれるのである。
また、ケガの程度により、Drが2週間の安静等プレー禁止の支持が出ると、そのまま選手証はクリニックに取られ保管され、次回の診察にてDrのプレー許可が出るまで返してもらえず、ケガが治らないと公式戦には出れないというシステムになっている。
バルサやエスパニョール等、いわゆるプロクラブであれば自前のDr、トレーナーがクラブに常駐し選手達のケガの対応をしてるが、その他の町のクラブであればそうはいかず、このシステムは非常に重宝されているものである。
このようなシステムがあるのは、スペインという国の医療制度から来てると思われる。
日本では、保険証があればほぼ国内全ての病院で診察が受けれる(3割負担であるが)が、ここではそうはいかず、国が管轄してる医療保険制度は、病気、ケガ等が起こると、まず、その住んでる地域が管轄してる病院にいく事(または連絡)になってる。
なのであそこのクリニックを受診したいんだけど....と思っても、保険適用とはならず自費でしか受信できないのである。
また国の保険にての診察は、ここでは基本的に無料である...(スペインの国民医療費はどうなってるんだ?と思ったものである...)
それか、国の医療制度とは別に私営の各保険会社が出してる保険に加入し、その保険会社がカバーしてる幾つかの病院リストの中から選んでその病院にて診療を受けると言った具合である。(自分も私営の保険会社に加入しているが、予約を入れ病院に行くと、まずDrと握手をし、まあお座り下さい...と椅子(診察の椅子ではない)に座り、最低でも30分はあれこれと話をし診察してくれたものである)
さて、エスパニョールようなプロクラブの場合、トップチームは当然の如く毎日Drが常駐しているが、下部組織にも毎日練習のある日にはDr、トレーナーが常駐している。
Drがクラブにある超音波エコー(携帯式)にて、その場で肉離れ、その他の外傷を診断している。
例えば、肉離れがエコーで確認されたら、リハビリにまわり、1週間毎に治癒の具合をエコーで確認しつつ復帰させると言った事を行なっている。無論MRIで調べれば詳細な情報が分かるが、なにせコストと時間がかかる。このエコー診断は約5分程度で済み、費用はゲル代くらいであり、トータルで見ると現場では非常に有効な物だなと改めて思ったものである。(画像診断能力が必要ではあるが)
またこちらには“Podrogo”(足病医)と言うのが存在し、いわゆる足関係の疾患を診ている。魚の目、タコ、イボの処置から、靴擦れ、爪の手入れ、そして扁平足、甲高によるいろいろな下肢、腰の障害を、足底板等を専門的に作成し、それらの疾患に対処している。
プロ選手ならともかく、こちらではジュニアユース、ユースの選手でも、いわゆるアライメント改善の為、足病医の計測のもと、オリジナルの足底板を作成し、使用している。
日本で足底板を作成すると、かなりの額がかかるが、ここではそこまで行かない額で作成出来、また作成してくれる足病医の診療所がいたる所にあるのである。
先日、ジュニアユースの選手が足関節を捻挫した、同じ箇所を3度目である。足関節の不安定性は当然の如くあり、Dr達も手術の検討をしていた。ストレスXPは無論、足関節のMRI(そこまでするか...)まで撮り、結局不安定度は限界ではあるが、リハビリで補強していくという事になった。
またエスパニョールは雇ってないが、他のプロクラブには、精神科医を雇っている所もある。プロ選手と同様、下部組織の選手に対しても、その選手を取り巻く環境(家族、学業、友達...)に対し、専門的に対処してるとの事である。
こちらでいわゆるプロクラブにスカウトされた選手達に対する、医療を含めた待遇は、ちょっと我々が日本で考えてるののとは想像を絶する事もあるが、ここでは大切な選手として扱っているという事である。
さて日本での場合は、スポーツ保険に加入し...と、こちらでのとを一概には比較はできない。が、各々一長一短な所があると思われる。
だが、前途に述べたサッカー協会管轄のクリニックシステムがあると言うのは、特筆に価するものだと思われる。
松井真弥 1971年広島生まれ 千葉にある某整形外科に勤務しつつトレーナーとして、いくつかのサッカーチームと関わる。2000年、本場のフットボール、プロクラブ内部を生の目で見るのと、スペイン語でやり取りが出来るトレーナーを目指し渡西。現在バルセロナにあるプロクラブ“エスパニョール”に在籍し選手のケアをしてる。